ピロリ菌
2010年03月27日
~ピロリ菌と胃腸の病気~
現在の消化器疾患の話題の中心はなんといっても「ピロリ菌」でしょう。この長い間見つからなかった胃の中の菌が胃炎や胃潰瘍、さらに胃ガンの原因ともなるという全く新しい視点が提示されてからまだそう時間は経っていません。
最初に報告したのは、オーストラリアの研究者、ワレン氏とマーシャル氏です。彼らは、胃の中に血液細胞とともにラセン状の菌がいることを見付け培養していましたが、なかなか成功しませんでした。
たまたま復活祭のお休みが入り、その間、放置されていた培養皿に菌の発育が認められたのです。この菌は胃の中の強い酸に対抗するため、尿素を分解するウレアーゼという酵素でアルカリ性のアンモニアを作りだし、自分自身を守っていることがわかりました。
ところがこのウレアーゼは、胃酸を刺激する働きのあるガストリンというホルモンを刺激するため、ピロリ菌の感染者は胃酸が多量に分泌されるようになります。またピロリ菌感染の胃には好中球という白血球の炎症が起こりやすく、この白血球は活性酸素、フリーラジカルを産生します。そのため、胃粘膜の傷害が進み、急性胃炎や胃潰瘍が起こりやすくなります。
日本人のピロリ菌感染率は約6000万人(二人に一人)以上、かつ年齢が高齢化するほど感染率は高いといわれています。ということは、感染していても胃炎などにならない人も多いわけで、発症にはピロリ菌のみならず、ほかの要因があるのです。
個人の免疫学的な体質はもちろんですが、ストレス、食事、鎮痛剤、喫煙、アルコール、腹部手術後などが影響します。
ともあれ繰り返す胃潰瘍、十二指腸潰瘍の原因としては、やはりピロリ菌が一番大きな要因と考えられており、国はH12年11月より、これらの症状を示す患者に対し、ピロリ菌除菌療法を保険適応とし、治療の対象としました。ピロリ菌陽性の胃または十二指腸潰瘍の方に、プロトンポンプ阻害剤という制酸剤と2種の抗生物質(クラリスロマイシン、アモキシシリン)を一日2回、一週間服用してもらいます。もちろんこの間は禁酒禁煙です。その後も、潰瘍の治療は継続しますが、約一ヶ月後に除菌が成功したか否かを検査します。
除菌が成功すれば、ほぼ潰瘍の再発はなくなり、この病気から解放されます。
最近の研究では、このピロリ菌は、胃、十二指腸潰瘍、胃炎や胃ガンなど消化器疾患のみならず、狭心症や心筋梗塞すなわち循環器の病気や、ニキビ、吹き出物、湿疹など皮膚の病気、また特発性血小板減少症という血液の病気にも関与していることがわかっています。
最後に、これらの病気が治療によって克服されて行くことは望ましいことですが、ピロリ菌は人間とともに何万年も共存してきました。胃がん検診で正常で、他の疾患もみられない方は必ずしも除菌は必要ではありません。