最近の糖尿病の話題

糖尿病について

現在の糖尿病の考え方
従来は、何らかの原因で膵臓のインスリン分泌の低下、またはインスリンへの抵抗性が高まり、血糖が十分に低下しない状態になり血中の糖が上昇し、ひいては尿中にも糖が出てくる。
高血糖が血管や臓器障害を起こしてくる~という考え方。
現在は膵のインスリン分泌減少やグルカゴンの分泌増加が、腸管でのインクレチン(GLP, GIP)の分泌減少や肝臓での糖新生の増加、筋肉での糖取り込みの減少、脂肪組織での脂肪分解の亢進、腎での糖再吸収の亢進、ひいてはで脳での神経伝達物質障害などにつながり、一連の大きな流れの中で糖代謝の障害がとらえられるようになっている。

食物は胃で消化・分解され、その後腸でブドウ糖へと変換されます。ブドウ糖は、腸から血液中に吸収されて行きます。それと同時に、膵臓もインスリンを分泌し血中に放出します。臓器の細胞膜にある「インスリン受容体」と「インスリン」が結合し、ブドウ糖輸送体の働きで、細胞の中にブドウ糖が入って行き、細胞が栄養を摂れる、ということになります。ブドウ糖は、細胞の中に入っていきますから、血液中のブドウ糖量は減り、血糖値は下がり、正常な血糖値が維持されます。健康な人であれば、このような仕組みで、食べた物がしっかり体の栄養になって、健康を維持できます。しかし、問題は糖尿病の場合で、このように、ブドウ糖が細胞に入って行けません。原因は、次の3つの理由が考えられます。
• 1) インスリンの出が悪い
• 2) インスリンが元気がない
• 3) インスリン受容体の元気がない
1)のインスリンの出が悪い場合は、膵臓の機能に問題があります。通常は、摂食によって血糖値が上がるので、血糖値を下げるために、膵臓がインスリンを製造・分泌します。しかし、膵機能が弱っていると、インスリン分泌量が少なくなり、摂食量に対し十分の量のインスリンがないために、細胞に入って行くブドウ糖が限られ、血糖値が上昇したまま下がらない、という状態になってしまいます
一方、2)と3)の場合は、インスリンそのものは必要な量分泌されているのに、インスリン自体の活性が弱かったり、細胞側のインスリン受容体が元気がない場合です。
インスリンとインスリン受容体が結合しないと、このブドウ糖輸送担体は、眠ったままで、ブドウ糖を取り込みに行かない。そのためブドウ糖は血液中に余ってしまい、結果として血糖値が高くなり、その状態が続くと、糖尿病になってしまう。インスリンとインスリン受容体の両方が元気になっていないと、駄目という訳ですね。どちらか片方が元気でも、片方が結合を拒否してしまえば、ブドウ糖は細胞に入って行けないです。2型糖尿病の場合、インスリンの分泌が悪い方もいますが、多くの場合インスリンはある程度出ているがこのインスリンが元気がないか、インスリン受容体が元気がないかのどちらか、あるいは両方が関係しているのでは、と考えられる。
糖尿病の合併症

血糖値が高いままの生活を続けると、血管がもろく、ボロボロになってしまういわゆる血管病になります。 そして、全身にネットワークを結んでいる血管と神経が、血糖値の高い状態が続くことで侵され、適正な栄養の供給が途絶えて全身の臓器にさまざまな障害が起こってくるのです。これは、糖尿病の慢性合併症とよばれています。
糖尿病の慢性合併症には、大別して細い血管にみられる合併症=細小血管障害と、太い血管にみられる合併症=大血管障害の2つがあります。また、慢性合併症のほかに、極度のインスリン作用不足によって急激に起こる急性合併症もあります。

高血糖の状態が長い期間にわたって続くと、身体の特に細い血管が集中している場所に合併症が起こります。眼、腎臓、神経系で合併しやすく糖尿病網膜症、糖尿病腎症、糖尿病神経障害があります。
さらに高血糖の状態が続くと、太い血管では動脈硬化が加速します。
動脈硬化は動脈の内側にさまざまな物質が沈着して厚く、硬くなり、隆起(プラーク)ができる状態で、糖尿病をはじめと脂質異常症(高脂血症)、高血圧、喫煙などによって起こるとされます。動脈硬化が進むと、血流が途絶えたり、血管にこびりついているプラークがはがれて血管に詰まり重要な臓器に障害を起こします。
この大血管性合併症には脳梗塞、狭心症・心筋梗塞などや閉塞性動脈硬化症があります
脳梗塞 脳の血管に動脈硬化が起こると、脳梗塞や脳出血などのリスクが高くなります。脳梗塞が起こる頻度は、糖尿病でない人に比べて2~4倍高いといわれています。
狭心症・心筋梗塞など 心臓の血管に動脈硬化が起こると、狭心症や心筋梗塞などのリスクが高くなります。ちなみに心筋梗塞を起こす頻度は、健康な人の3倍以上で、はっきりした自覚症状がないのが特徴です。
閉塞性動脈硬化症 足の太い血管に動脈硬化が起こり、血液の循環が悪くなって歩行が困難になります。悪化すると、痛みで歩けなくなり、やがて潰瘍、壊疽(えそ)を起こして、場合によっては足を切断することもあります。糖尿病患者さんでは、この閉塞性動脈硬化症は10~15%と高い割合で合併します。
糖尿病の治療
食事療法
基本
1 腹八分目
2 食品の種類はできるだけ多くする
3 脂肪は控え目に
4 食物繊維を多く含む食品をとる
5 朝食、昼食、夕食を規則正しくとる
6 ゆっくり良く噛んで食べる

食品交換表を利用~食品を6群の表に分類、1単位=80カロリーで食品量の目安

食後高血糖は放置してはいけない。動脈硬化の発症・進展を促す。また膵β細胞のインスリン分泌能が急激に低下しさらなる食後高血糖、空腹時高血糖の原因となるから。
繰り返す血糖変動の血管内皮機能に与える影響~インスリン分泌能とは独立した血管内皮への単球接着を亢進させる要因である。これは早期の動脈硬化病変である。
人類の歴史を1年とするなら、飽食の時代は12月31日23時56分である。
現代人は常に食後の状態におかれているのに、体質は飢餓に耐えてきた時のままである。
食後高血糖に対して無防備!
*地中海食ブームf
*フレンチパラドックス;フランス人は肉消費量が極めて多いが、心臓病の致死率が低い。
ワインの消費量が世界一(抗酸化物質=ポリフェノールを含む)

運動療法
糖尿病患者が行うべき基本的運動は有酸素運動。習慣的に行うことによって、血糖コントロール改善、心血管リスクの軽減、肥満の改善、呼吸・循環器機能の向上など総合的な改善が期待される。
米国糖尿病学会では自転車、水泳、水中歩行などの有酸素運動を一週間に150分以上行うことを推奨。
日本糖尿病学会では、一回15-30分間の散歩を1一日2回行うことを推奨。
腹筋運動/腕立て伏せ/スクワットの3種類のトレーニングも推奨される。
*注意点:運動を避ける場合:胸痛・脈の乱れ、息切れがある時、めまい・フラツキ・失神感、
高血圧160/100以上など、血糖値が運動直前で250mmHg以上、骨痛筋痛

「スロージョギング」&「スローステップ運動」

このニコニコペースの「スロージョギング」は、速く走らなくていいのです。
ウオーキングとどこか違うのでしょうか。「ウオーキングの良さは、少々速く歩いても急に負荷が上がらないこと。ウオーキングの時速4㎞に相当する運動の強さをジョギングで得るには、時速2.5㎞〜3㎞とすごくゆっくりでよいのです。しかも膝を高く上げず、ゆっくり走ることができます。そして、慣れてくるとだんだん速く走れるようになります。
ウオーキングと違ってジョギングは脚を引きつけて上げることで膝を伸ばすことができるので、膝廻りの筋肉や大腿部、大腰筋を鍛えることができます。このニコニコペースの「スロージョギング」は、ウォーキングの消費カロリーの1.6倍なので体重を減らし、血圧も下げることができます。

薬物療法
SU薬;インスリン分泌促進薬~グリニド系と同じなので併用はできない。
膵β細胞のSU受容体と結合しATP感受性Kチャネルを閉鎖し、脱分極して細胞外Caが流入しインスリンの分泌を起こす。内因性インスリン分泌能が残っている症例のみ有効。
第1世代~第3世代;オイグルコン/ダオニールは強力、グリクラジドは血糖低下以外に抗酸化作用・血小板機能抑制効果がある。グリメピリドはインスリン分泌作用以外にインスリン抵抗性改善作用もあり。

α-グルコシダーゼ阻害薬(α-GI);小腸粘膜上皮細胞に存在する二糖類分解酵素の作用を競合的に阻害して単糖類への分解を抑制する。その結果、糖の紹介・吸収が遅くなる。
食後の過血糖が抑制され、食後高血糖になりやすい2型糖尿病に適応。
アカルボース/ボグリボース/ミグリトールの3種。小腸で糖と同時に存在することが必要なので、食前内服。食事開始15分後くらいまでなら血糖上昇抑制効果は期待できる。
腹痛、腹部膨満感、便秘、下痢、放屁などの腹部症状が副作用。低血糖時はグルコースを服用。

グリニド系:速効型インスリン分泌促進薬~ナテグリニド/ミチグリニド/レバグリニド
SU構造を持たないがSU受容体のATP感受性Kチャネルを抑制することでインスリン分泌促進。
効果発現が早いが持続が短い。食後血糖高値例に良い適応。
*ファステイック/スターシス、グルファスト、シュアポスト
チアゾリジン薬:脂肪細胞の核内転写調節因子=PPARγのアゴニスト。脂肪細胞の分化を促進する。
脂肪細胞は小型に分化し大型細胞はアポトーシスを起こす。TNF-α産生を抑制しインスリン抵抗性が改善する。またPAI-1の発現抑制で抗動脈硬化作用も。現在ピオグリタゾンのみ。
肝障害や水・Naの貯留作用で体重が増加しやすい(特に女性)。心不全の患者には禁忌。
TNF-α;TNF-αは細胞接着分子の発現やアポトーシスの誘導、炎症メディエーター(IL-1、IL-6、プロスタグランジンE2など)や形質細胞による抗体産生の亢進を行うことにより感染防御や抗腫瘍作用に関与するが、過剰発現は関節リウマチ、乾癬を
PAI-1;PAI-1は、組織プラスミノーゲンアクチベーター(t-PA)の活性を消失させ、線溶系を抑制するポリペプチドです。敗血症、動脈硬化等になると高値を示します。

ビグアナイド薬:昔、乳酸アシドーシスの副作用で1970年代以後使用されなくなっていた。最近、メトホルミンのインスリン抵抗性改善作用が注目され復権。肝臓からの糖放出抑制、末梢での糖取り込みの促進、消化管からの糖吸収抑制により血糖を降下させる。最近targetがAMPKである事が明らかとなる。欧米では肥満のDM患者の第1選択。
肝腎機能障害、心機能障害者、アルコール多飲者は禁忌。高齢者は慎重投与。

DPP-4阻害剤:GLP-1は小腸L細胞から分泌されるインクレチンホルモン。これは①インスリン分泌促進
②グルカゴン分泌抑制③胃内容排出の遅延④満腹感の促進と食事摂取量の抑制⑤動物モデルでβ細胞の維持・増加など
GLP-1はDPP-4により分解され、半減期は3分。そのためDPP-4を阻害する薬を開発
シタグリプチン/ビルダグリプチン/アログリプチン/リナグリプチン/テネリグリプチン/アナグリプチン/サキサグリオプチンの7種
SU剤は減量して併用する。

GLP-1アナログ:リラグリプチン(ピクトーザ)はGLP-1をアシル化してアルブミンとの結合を促し分解を受けにくくしたもの。半減期は14-15時間。エキセナチド(バイエッタ)~週一回製剤のビデュリオン

SGLT-2阻害薬:腎におけるブドウ糖吸収の90%を占める近位尿細管S1セグメントに存在するSGLT-2を抑制することで腎における糖の再吸収を抑制する。S3セグメントのSGLT-1はブドウ糖吸収の10%を分担するがこちらは抑制されないため低血糖は少ない。

インスリン:
基礎分泌;常に低レベルで持続的に分泌されるもの
追加分泌;食事刺激により急速に分泌されるもの
このような健常者に見られる血中インスリン変動パターンを再現することがインスリン療法の目的。
以前はウシ、ブタの動物インスリンが使用されていたが、現在はヒトインスリンとヒトインスリンアナログ製剤 (遺伝子組み替え技術でヒトインスリンを修飾し作用特性を変化させたもの) 100単位/mlに統一。
速効型:追加分泌を補う~作用発現に30分→食前30分に投与
ペンフィルR/ノボリンR/イノレットRなど
超速効型;リスプロ(ヒューマログ)グルリジン(アピドラ)アミノ酸置換により早く分解~食直前投与
ノボラピッド、ヒューマログ、アピドラ
中間型;ペンフィルN,ノボリンN.イノレットN,ヒューマログN、ヒューマリンN
硫酸プロタミンを添加し作用時間を長くしたもの/皮下からの吸収が一定せず血糖が変動
混合型/二相性;超~速効型インスリンを中間型をさまざまな比率で混合したもの
30R=30%が速効型、70%が中間型~一日2回朝食前、夕食前の投与
持効型;持続時間が長く安定した吸収・作用を持つもの
グラルギン(ランタス)デテミル(レベミル)~一日一回の投与で明らかな作用のピークなく24時間持続
基礎分泌を補うのに適する。強化インスリン療法の際の基礎分泌補充に使用。
また経口薬との併用=basal supported oral therapy(BOT)にも使用。

 インスリン使用時の注意点;低血糖/インスリンアレルギー/インスリン抗体の産生/リポアトロフィー/体重増加

欧米の糖尿病と日本の糖尿病は同じではない。
2型糖尿病の日本の患者は欧米人に比べはるかにやせている。
日本ではインスリン欠乏が重要であり、西洋ではインスリン抵抗性がより重要。
西洋では糖尿病患者は本質的に肥満、高血圧、脂質異常症をきたしている。
日本人の心血管リスクプロファイルは西洋人よりも良好である。
糖尿病に関する遺伝因子は東洋と西洋ではそれほど差が無かった。
糖尿病患者は心血管疾患に罹患する可能性が2-3倍高い。

糖尿病は外部からやってくるものではない。私たちの中にあり、自然が私たちを作る過程の一部であり、一定の暮らしをしていれば糖尿病を発症する可能性があります。糖尿病とともに生きる方法を考えていかなければならないのかもしれません。